くまちゃん Sweet Bear 65.2×53cm / 紙に鉛筆、油彩、パネル / 2024年 ©︎ 2024 Yoko Ebato
古美術とのコラボレーション企画展覧会は昨年に続き2回目の開催
ギャラリー・Quadrivium Ostiumは、若手アーティストと、ギャラリーの古美術コレクションからインスパイアされた現代アート作品を展示販売する企画展覧会を開催しています。
企画はアーティストがギャラリー空間を体感し古美術コレクションを鑑賞することから始まり、アーティストの世界観を尊重しつつテーマを考察していきます。
江波戸陽子の個展は、昨年2023年に開催した「こちら未来」に続いて2回目となります。
江波戸陽子の作品世界 ~「物」を通して過去の存在を見る~
江波戸陽子は、「人」と「物」の密接な関係について考察し、未来を起点として今を「過去」とみなす視点から「物」の存在を作品に転写する作家です。未来に残された「物」が語る物語を描き留め、かつて在って今は亡き存在を証明しようとします。
ステートメント
現在を過去として眺める感覚があります。
現在の中に生きてはいるものの、それを未来から眺めているように感じます。
あらゆる物が世界の遺品に見えます。
「人」と「物」は密接に関わっています。物を持たない人はいません。
いずれ人は亡くなり物だけが残ります。物だけが、滅び去ったもののために何かを語ります。歴史、記憶、思い出が確かにそこにあったことを証明し守っています
お気に入り Favorite 19×27.3cm / 紙に鉛筆、油彩、パネル / 2023年 ©︎ 2023 Yoko Ebato
これらの物たちは、意思や意図を持たずにただそこに集められ置かれており静寂の中での孤独が伝わります。
この江波戸作品に常在する孤独とは、現在の時間を越えた終わりについての思考の顕れであり「物」は有限性の基点の記号として存在しています。
テーマ「ガーディアンズ」について
ガーディアン(Guardian)とは、「守護者」「保護者」「管理者」の意味を持ちます。江波戸は、時の流れの中で「今、存在するもの」と「かつて存在していたもの」の間をつなぐのは「思い出」であり、この世界は思い出と忘却が入れ子構造のように重なり合って出来ていると考えます。(以下『』は江波戸陽子の言葉)
『人間は何かを忘れ何かを思い出しながら生きています。
世界から去った後も、他の人間に思い出されたらその人間の世界で生きています。
忘れる、忘れられる、思い出す、思い出されるが入れ子構造のように重なり合って世界が出来ています』
そして、両者の間をつなぐのが遺された「物」たちであり、「物」は「歴史、出来事、記憶、思い出」の守護者とみなします。
『思い出すために必要なのは「物」です。物を持たない人間はいません。
歴史、出来事、記憶、思い出が確かにそこにあったことを、物は証明し守っています。
ガーディアンとして。』
くまちゃん Sweet Bear 27.3×27.3cm / 紙に鉛筆、油彩、パネル / 2024年 ©︎ 2023 Yoko Ebato
江波戸はこれらの物たちに、過去を守り今につなぐ守護者の役割を与えます。
古美術と江波戸作品
ギャラリーQuadriviumOstiumは、様々な地域、時代の古美術コレクションを保有しています。
ぬいぐるみは子ども時代のガーディアン。
飛行機は工学の発展と挑戦のガーディアン。
物があれば思い出せる。
古美術品が当時の人々の息遣いを守り続けているように、
今日、今、目の前にあるすべての物はガーディアンです。』
作品「ヒコーキ野郎」は、強い意志を持つ瞳を持ち、固い金属の塊というよりトビウオのような生命力が伝わります。
ガーディアンとしての「ヒコーキ野郎」は、物のこわばった不変性をこわし「発展と挑戦」の歴史の記憶のガーディアンとして新たな文脈を生み出します。
モノクローム描写の探求
今回の展覧会の出品作品は全てモノクローム作品で、パネルに和紙を貼り、鉛筆やカーボン紙、銅版画用のインクで描かれています。
江波戸は、モノクロームは自身の心の在りようと重なり「静かで遠い感じ」が気に入っていると話します。そして、モノクロームで描くにあたり、最も重要な要素は絵の骨格となる構図であると述べています。その理由として、モノクローム描写が、人間で例えると服をきていないそのままの状態と同じで、色みやマチエールでの誤魔化しが効かないからだとします。
また、無駄のないバルール※をとことん探求することで、描写は更に鮮やかな強度のあるものとなり、ぬいぐるみの毛の一本一本、影に反射する光の粒子まで見通せるように見えます。モノクローム描写への飽くなき探求は江波戸作品の真骨頂を生み出していると言えるでしょう。
※バルールとは絵画における色と空間との関わり合いのことで、色の遠近法のようなものです。色には明るさ・鮮やかさ・色みの3要素があり、モノクロームは明るさと鮮やかさで成り立っています。
進化し続ける江波戸陽子の世界
江波戸は、見る人の胸を打つ「胸がいっぱいになる絵」を描きたいと語ります。
今回の展覧会は、モノクローム描写を探求した新しい挑戦の成果の集成です。
ガーディアンズ(守護者たち)がモノクロームの静謐な時空を漂う江波戸陽子の最新の世界を是非ご高覧ください。
江波戸 陽子
Yoko Ebato
<略歴>
1988 東京生まれ
2011 多摩美術大学 絵画学科油画専攻 卒業
2013 多摩美術大学大学院 美術研究科修士課程 絵画専攻 修了
現在東京在住
<賞歴>
2011 第16回福沢一郎賞受賞
2014 ワンダーシード2014入選
2021 第5回アワガミ国際ミニプリント展入選
第6回星乃珈琲店絵画コンテスト優秀賞(岡村桂三郎氏推薦)受賞
2022 Independent Tokyo 2022 審査員特別賞(かんの自然氏推薦)受賞
第1回FEI PURO ART AWARD スタンダード部門入選
2023 第7回宮本三郎記念デッサン大賞展佳作
第2回FEI PURO ART AWARD スタンダード部門入選
<個展>
2021 「何を見ても何かを思いだす」(OgalleryUP・S・東京)
2022 「思い出はどこへ」(一日・東京)
「今は昔」(JINEN GALLERY・東京)
「昔は今」(アートルーム企画室•東京)
2023 「十年一日」(JINEN GALLERY・東京)
「江波戸陽子×古美術 こちら未来 〜それでも、世界は続いていく〜」(Quadrivium Ostium・神奈川)
「地上は思い出」(ギャラリー石榴・東京、長野)
<グループ展>
2013 「第16回多摩美術大学校友会小品展」(文房堂ギャラリー・東京)
2014 「トーキョーワンダーシード」(トーキョーワンダーサイト・東京)
「グループ展」(RISE GALLERY・東京)
2015 「つくるひと×つかうひと×みるひと展」(ギャラリー子の星・東京)
2017 「第20回多摩美術大学校友会小品展」(光村グラフィック・ギャラリー・東京)
2021 「アワガミ国際ミニプリント展2021」(阿波和紙伝統産業会館・徳島)
2022 「第6回星乃珈琲店絵画コンテスト受賞作品展」(星乃珈琲店・宮崎)
「第1回FEIPUROARTAWARD入選作品展」(FEI ART MUSEUM・神奈川)
2023 「Prints & collage」(SAN-AI GALLERY・東京)
「第2回FEIPUROARTAWARD入選作品展」(FEI ART MUSEUM・神奈川)
「第7回宮本三郎記念デッサン大賞展」(宮本三郎美術館・石川/世田谷美術館・東京)
<アートフェア、イベント>
2022 「SICF23」(青山スパイラルホール・東京)「Independent Tokyo 2022」(東京ポートシティ竹芝・東京)
「中央線芸術祭 ともにある場所へ」(小金井アートスポットシャトー2F・東京)
「クリスマスアートマーケット 2022」(アートルーム企画室・東京)
2023 「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」(マリンメッセ福岡・福岡)
<コレクション>
星乃珈琲店
イベント
・アーティストトークショー&レセプションパーティ 4月13日(土)14:00~17:00
要予約・無料 mailでお申込みください
・アーティストによるギャラリーツアー 4月14日(日) 14:00~15:00
予約不要・無料
・対話型鑑賞会 4月21日(日) 14:00~15:00
要予約・無料 mailでお申込みください
・お申込み先メールアドレス s.kuroda@quadriviumostium.com (担当:黒田)