城田圭介「視差と時差」2025年5月8日(木)~5月20日(火)

城田圭介の珠玉の静物画を堪能する展覧会

城田圭介は、近年手がける静物作品では写真と絵画の各々が持つ視差に注視して、写真と絵画を用いて制作しています。視差の加えて絵画は描くという行為のプロセスから時差が生じます。見えない視差と時差の痕跡を辿るように、写真と絵画は直線や曲線で区切られ並列に置かれます。

そして、分節された異なる視差と時差を同じ平面上に表現することで、本来は不可視である人間の認識の階層的構造をリフレクトさせ意識化させます。今展では、ギャラリーの古美術コレクションをモチーフにした作品があります。長い時を経てきた古物そのものには異なる時間が流れています。

また、仙厓で知られる禅思想の要素をあらわす「まるさんかくしかく」をあらわす石を用いた作品もあります。モチーフの石自体にも禅語で「石はこれ石」とあるように、複層して表層的意識から「本質」について思惟を展開させていく要素が含まれています。各作品に共通する注意深くひかれた繊細なラインは、モチーフを損なうことなく佇ませます。そこには、完全な一致もなければ致命的な断絶もなく一種のあいまいさを残すことで、異質なもの同士を受容することで「本質」を表現しようとする作家の意思が読み取れます。

城田圭介の作品は、風景をモチーフにしたスケール感のある作風で知られていますが、今回の「視差と時差」展では静物画のみで構成されます。静物画に集中することで、作家の本来の内的性向が際立つ作品群となっています。作品の前に立つと、呼吸するように深層意識の地平に自らを置いて眺めることができることでしょう。新しい絵画の体験をいざなう城田圭介の新境地の珠玉の作品が20点ほど出品されます。
是非、ご高覧ください。

Still Life, Antique Bowl and Stainless Steel Bowl (parallax_19)》  19.6×30cm / 写真、紙に水彩 / 2024

【本展の見どころ】
視差と時差」展について 城田圭介

1. 対象(静物)を写真に撮る。
 2. 1と同じ位置から対象の絵を描く。描くとき1で撮った写真は参照しない。(1と2は順序が逆のときもある。)
 3. プリントした写真と絵を切り、あるいは破き、両者を重ね合わせていく。(1、2の進行中は3の結果を予め見通すことができない。)

対象を見つめる。もちろん肉眼を通して見るのだが、基本的に私たちが見ている世界は左右両眼の視差の世界だ。

次に対象へカメラを向けて見る。ファインダーを覗くその目は同じく肉眼だが、レンズを通さない世界とは少し異なって見える。カメラ自体がその構造に視差を備えているが、プリントした写真を見るときは撮影時にレンズ越しに見ていた世界とまた少し異なる。対象を見ているのではなく、写真を見ている。

こんどは対象を絵に描き起こす。レンズを通さず肉眼から直に得られる現実を絵の世界で立ち上げる。ここで既に写真撮影時と絵を描く時ではその眼差しに隔たりがある。絵は描いている間に光も色も移り変わり、視線は揺れ続ける。そして出来上がった絵を見ているときは描いているときとはまた異なる時が流れ、別の世界を見ているようだ。もはや対象は見ておらず、絵を見ている。

最後に写真と絵を組み合わせていく。肉眼そのままで見る世界、写真で見つめる世界、絵で立ち上がる世界。どれも自分の目を通して同じ位置から同じ対象を見つめ得られた世界に違わないが、得られた結果も流れる時も異なり互いのイメージは都合よく重なり合うことはない。しかし重ならず辻褄の合わない事実こそ見過ごすべきではないとの思いが働く。

正しく見ることにはいつも困難が伴うが、まずは自分ひとりの中にさえある異なる世界や矛盾、どこまでも主観に過ぎない眼差し、視差と時差に満ちた現実を受けとめるところから世界は現れるのだと思う。

展示作品にはQudrivium Ostiumで借用した古美術品をモチーフとして取り入れている作品もある。人の手によって生まれた古美術品は長い時を経て親しまれ、所有され、それに相応する価値が付されている。展示作品には古美術品の他様々なモチーフが同一空間上に配置されているが、それぞれのモチーフに異なる時間が流れ、付される意味や価値も様々だ。これら異なる時を経た物同士が作品/展示空間において同居していることも 今回の展示では重視している。

Still Life, ◯△□   (parallax_25)》  21×29.7cm / 写真、紙に水彩 / 2025

Still Life, Antique Bowl and Plastic Bowl (parallax_17)》  19.8×28.6cm / 写真、紙に水彩 / 2024

プライベートコレクションの中の秘蔵品を公開販売

展示販売する民族布は、酒井氏がサラリーマン時代からコツコツと集めたものです。当時はインターネットで海外とのメールのやりとりができるようになった頃で、酒井氏は、ヨーロッパのキリムコレクターに直接コンタクトをとり購入することで徐々にコレクションを増やしていきました。今展では、民族布の文化的価値を伝承していく意味からも特別なご協力をいただき、コレクションの中でも100年近く前の19世紀後期から20世紀前期のアンティーク・キリムと呼ばれる歴史的、美術的価値の高いアートピースにあたる秘蔵品が出品されます。

時を経たキリムは、羊毛はすり減り色も褪せていますが、化学染料を殆ど使っていないため色彩は豊かで、模様は幸福を願う象徴の文様が使われています。丁寧に織り伝えてきた遊牧民の女性たちの暮らしの歴史を湛えた品々は、観る者に深い感動を与えることでしょう。

市場に流通していない、貴重な個人コレクションを展示販売する希少な機会です。是非ご高覧ください。ご来廊を心よりお待ちしております。

©佐藤佳乃子

城田圭介(しろた けいすけ)

刺繍作家

1975年 神奈川生まれ。
2003年 東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了
2001年 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業

個展/二人展
2024年 「波と海」マキファインアーツ(東京)
2023年 「Beyond the Frame」城田圭介×那須佐和子 haco -art brewing gallery- (東京)
2022年 「Out of the frame」マキファインアーツ(東京)
2021年 「Over」マキファインアーツ(東京)
2019~2020年 「写真はもとより PAINT, SEEING PHOTOS」茅ヶ崎市美術館(神奈川)
2013年 「Tracing/Background」ベイスギャラリー(東京)
2010年 ギャラリー・ステファン・ルプケ(ケルン)
2009年 ベイスギャラリー(東京) 2008年 ギャラリー・ステファン・ルプケ(ケルン)                                    ギャラリー・アーネス+ルプケ(マドリード)
2006年 「オーバーラップ」ギャラリー・サン・コンテンポラリー(ソウル)     
     ベイスギャラリー(東京) 2004年 「A SENSE OF DISTANCE」ベイスギャラリー(東京)

主なグループ展
2023年 「親子で感じる横須賀 子育てから生まれた作品」ヨコスカアートセンター(神奈川)      「five」日本橋三越本店本館6階美術コンテンポラリーギャラリー(東京)     「Group Show – グレン・ボールドリッチ|ホーリー・クーリス|アレックス・ダッジ|城田圭介」 マキファインアーツ(東京)
2022年 「かくれんぼ–さがして。そして、」茅ヶ崎市美術館(神奈川)      
    「Group Show – 白川昌生|末永史尚|城田圭介|加納俊輔|ショーン・ミクカ」マキファインアーツ(東京)
2013年 「シェル美術賞展 アーティスト セレクション」国立新美術館(東京)
2012年 「フォトリファレンス・写真と日本現代美術」ベオグラード文化センター(ベオグラード)
2008年 「現代写真の母系2008 写真ゲーム」川崎市市民ミュージアム(神奈川)
2007年 「Young Japanese Landscape」ヤングアートミュージアム(ウィーン)
2005年 「VOCA2005 現代美術の展望—新しい平面の作家たち」上野の森美術館(東京)
2004年 「シェル美術賞展」代官山ヒルサイドテラス(東京)

パブリックコレクション 茅ヶ崎市美術館(神奈川)

作品集 『KEISUKE SHIROTA / WORKS 2003-2009』 グラムブックス 2009年

ステートメント
写真と絵画を主な制作手段とした作品を展開している。凡庸なストリートスナップや観光写真、アルバム写真などを基点にフレーミングからこぼれ落ちたもの、あるいは写真の前景と背景、主題と非主題などに着目し、絵画と組み合わせた制作を行う。様々な制作展開を通じて記憶や目に映る事象の不確実さを、むしろ生の確からしさとして捉えなおす。

【イベント】「トーク&鑑賞会&レセプションパーティー」5月10日(土)開催(予約不要・無料)

展覧会開催期間中、5月10日(土)にトークショーを行います。トークショー後は作家と作品鑑賞会とレセプションパーティーを開催いたします。

トルバ(小物入袋)/バルーチ族/19世紀後期/個人蔵

トルバ(小物入袋)/バルーチ族/19世紀後期/個人蔵

【イベント概要】

トークショー:14~15時
作品鑑賞会:15時~16時
レセプションパーティー:16時~18時

開催日時:5月10日(土) 14:00~18:00
開催会場:ギャラリーQuadrivium Ostium
参加費:無料
予約:不要、出入り自由

株式会社Quadrivium
〒248-0003 神奈川県鎌倉市浄明寺5-4-32
Tel:080-5430-6641 (黒田)  Mail:s.kuroda@quadriviumostium.com
【展覧会期間中:予約不要・ 展覧会期間以外は予約制】
水曜定休・ほか不定休 営業時間 11:00〜17:00

株式会社Quadrivium
〒248-0003 神奈川県鎌倉市浄明寺5-4-32
Tel:080-5430-6641 (黒田)
Mail:s.kuroda@quadriviumostium.com
【展覧会期間中:予約不要・展覧会期間以外は予約制】
水曜定休・ほか不定休 営業時間 11:00〜17:00

© Quadrivium Ostium
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