石神雄介 Echoes / エコーズ 2026年5月16日(土)~31日(日)

『月明かりの中、波打ち際を歩いた。何か大切なものをなくしてきた』石神雄介

喪失の情動はいつの時代も、どの土地においても、人が人であるかぎり消えることのない普遍のものです。
石神雄介は、わたしたちの心の奥底でひそかに揺れ動くこの情動を、油彩に定着させながら、記憶をモチーフに、時間、土地と移動、無意識と意志の交差点を描き続ける画家です。

Echoes / F30 / 油彩、キャンバス / 2026
Concept —「Echoes /エコーズ」の 概念と文脈

『絵も私たちも引き合い、反発して、響き合う。過去現在未来も重なり、繋がり、共鳴している。』(以下『』=石神)

「Echoes / エコーズ」=「こだま」という現象が、音が山や谷に反響しながら変容してゆくように、ひとつの記憶のイメージとそこから引き起こされる感情は、時間と空間を超えて呼応し、やがて別の誰かの内部で新たな形として現れます。

石神の作品における「記憶のイメージ」体験としてわたしの印象に残るのは、彼の曽祖父がバナナ畑で佇む小さな作品です。古いフィルムを見ているような、おぼろげな記憶の残照のようにぼんやりとした輪郭の人物のシルエットは、得も言われぬ記憶の深層心理へと導くものでした。作品と鑑賞者、過去と現在、自己と他者のあいだに働く見えない磁場こそ、石神の芸術が生まれる場所なのです。

思索の旅―ユング、バルト―へと誘う絵画芸術

画面に繰り返し現れる水、光を携えた人物、闇の中に蠢く者は、カール・グスタフ・ユング(精神科医・心理学者1875-1961)が唱えた、人類が文化や時代を超えて共有する元型(アーキタイプ)-影、アニマ、自己-の普遍的なイメージの現代的変奏として読むことができます。そして、今展のテーマ「Echoes / エコーズ」は、ユング的な「共時性」(シンクロニシティ)-因果関係を超えた意味ある一致-の感覚とも響き合っています。

一方で、『言い表せないその領域の存在こそが、私たちたり得るために必要なのかもしれない』石神のこの言葉は、ロラン・バルト(哲学者1915-1980)が問いかけた「白いエクリチュール」―言語が意味に回収される手前のある種の沈黙の地帯-という感覚と深く共鳴します。また、『目前の絵画から、背後の記憶から、私からあなたへ、果てしなく呼応するこだま』という絵画観は、バルトが「作者の死」で述べている「エクリチュールの空間は巡回するもの」-「あらゆる折り返し、あらゆる層を通じて連続する」という考えと重なります。絵が完成した瞬間に作者の意図から離れ、観る者の記憶や無意識と結びついて新たな「Echoes / エコーズ」=「こだま」を生み出し続けるという構造は、まさにバルト的なテキストの開放性そのものといえるでしょう。

生の痕跡から生まれる普遍的な問い

このように、石神作品には豊かな思索の海原へと誘う力があります。しかし、意図的に思想を援用して描いているというより、個人的な記憶が生み出す磁場が、論理的な語りに抵抗し、直接的に鑑賞者の内部へ届けようとする「土台としての重力」を与えているようにも感じます。私的な歴史の実存との結びつきが、彼の作品を概念的な夢想絵画に陥らせないのです。

「刺さってくる細部」(プンクトゥム)は常に生の痕跡から生まれます。普遍へと開かれると同時に深く私的であること——その矛盾を矛盾のまま抱えていられることが、石神作品の魅力と言えるでしょう。言い換えれば、石神の作品は、普遍的な問いを生きるのが「今在る」ことである、と語りかけてくるのです。

文責:黒田幸代

示し / F10 / 油彩 、キャンバス / 2026 
ドローイング / B4 / 色鉛筆、紙 / 2026
ステートメント

身体的な経験を通じた記憶や、イメージの残滓を手がかりにして、絵画を中心とした制作をしています。
その中で、人とは何であるか?
「私がある」とはどういうことか?を問い続けています。
場所や出来事との繋がりの中で、どのように私個人と社会が形成され、関係していくのか。
時間や空間は「私」という感覚を通じてどのように規定されるのか。
そして、それらはどの程度の可塑性を持つのか。
私はこのような認識の問題を読み解き・書き換えることができる媒体として、絵画と言葉、それらによって作られる空間の可能性を探求しています。

©佐藤佳乃子

石神雄介 / Yusuke Ishigami

1988 千葉県生まれ
2012 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2022 FACE 展 2022 優秀賞
    Idemitsu Art Award 2022 入選

【グループ展】
2025 「絵画のゆくえ2025」SOMPO美術館(東京)
2024 「Dalston group exhibition -part6-」Gallery Dalston(東京)
    「shades」REIJINSHA GALLERY(東京)
2023 「Prologue ⅩⅣ2023」GALLERY ART POINT(東京)
    「DUTCH AUCTION ART NOW VOL.3」銀座 蔦屋書店(東京)
    「境界としての、ひと、情景」gallery green&garden(京都)
    「たいせつなもの展-HERO-」靖山画廊(東京)
2022 「FACE 展 2022」SOMPO美術館(東京)
    「FACE 展 選抜作家小品展 2022」REIJINSHA GALLERY(東京)
    「Idemitsu Art Award 2022」国立新美術館(東京)
2021 「ふなばし現代アート展 第8回 アラカルト」船橋市民ギャラリー(千葉)
2012 「九人展」Kitchen Bar ノラや(東京)
2009 「地獄絵図」船橋市民ギャラリー(千葉)

【個展】
2026 「記憶のヴェール」日本橋三越本店 美術サロン(東京)
2025 「深い森-星の旋律-」銀座 蔦屋書店(東京)
    「追憶の宮殿」靖山画廊(東京)
2024 「Play in the depths(深層の戯び)」Gallery Dalston(東京)
2023 「A place named me」オープンスタジオ(千葉)
    「SEIZAN GALLERY TOKYO凸 石神雄介 – Call -」SEIZAN GALLERY TOKYO凸(東京)
    「INNER DRIVE」gallery blue 3143(東京)   
2022 「透明な日」 オープンスタジオ(千葉)
    「Call」スタジオ35分(東京)
2021 「画家の模型(眩暈と剥離)」オープンスタジオ(千葉)
2020 「光景の背後」EFAG East Factory Art Gallery(現:葛西A倉庫)(東京)
2015 「頂上への沈降」船橋市民ギャラリー(千葉)

【その他】
2024  スペース短歌 /初谷むい(著)、寺井龍哉(著)、千葉聡(著) 時事通信社  装画

【開催概要】
2026.5.16(土)~31(日)11:00~17:00
休廊:火・水・木(5/19、20、21、26、27、28)

株式会社Quadrivium
〒248-0003 神奈川県鎌倉市浄明寺5-4-32
Tel:080-5430-6641 (黒田)  Mail:s.kuroda@quadriviumostium.com

<タナベルン 過ごす>― 展覧会概要―
開催期間:11月1日(土)~11月23日(日)まで
休廊日:毎週 月曜・火曜
営業時間:11:00~18:00
予約:不要
入館料:無料

株式会社Quadrivium
〒248-0003 神奈川県鎌倉市浄明寺5-4-32
Tel:080-5430-6641 (黒田)
Mail:s.kuroda@quadriviumostium.com
【展覧会期間中:予約不要・展覧会期間以外は予約制】
水曜定休・ほか不定休 営業時間 11:00〜17:00

© Quadrivium Ostium
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